佐賀地方裁判所 昭和25年(行)1号 判決
原告 小林重光 外七名
被告 佐賀県教育委員会
一、主 文
原告等の本件休職及び退職処分取消の請求はいずれもこれを棄却する。
原告等の本件損害賠償請求の訴はいずれもこれを却下する。訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告等は、昭和二十四年十月一日被告佐賀県教育委員会が原告小林、同小川、同音成、同十文字、同西岡、同坂本、同水田に対してなしたる休職処分及び原告江口に対してなしたる退職処分はこれを取消す。被告は原告小林に対し金一万七千九百七十六円、同小川に対し一万九千八円、同音成に対し金一万五千八百三十六円、同十文字に対し金二万三千九百六十八円、同西岡に対し金二万七千九百九十六円、同坂本に対し金三万千六百十二円、同水田に対し金一万二千七百十六円、同江口に対し金一万五千八百四十九円並に昭和二十五年二月一日以降原告等に対する前記休職及び退職処分取消に至るまで一ケ月につき原告小林に対し金八千二十三円、同小川に対し金六千三百二十七円、同音成に対し金五千五百二十七円、同十文字に対し金八千二十三円、同西岡に対し金九千二百七十七円、同坂本に対し金一万五百二十二円、同水田に対し金四千三百六十八円、同江口に対し金五千二百八十三円の割合による金員をそれぞれ支払わなければならない。被告は原告八名に対しそれぞれ十万円を支払わなければならないとの判決並に右金員支払を命ずる部分につき仮執行の宣言を求め、その請求原因として昭和二十四年九月三十日に被告佐賀県教育委員会は原告等を含む十六名の佐賀県下公立学校教員に対して「理由、基準は云われないが諸般の情勢から教職に止まることを許されない」と称して辞職勧告をなし、原告江口を含む五名はその勤告の威圧のためこれを受諾し、その余の原告七名を含む十一名は右勧告の理由を追求したが何等の回答がなかつたのでこれを拒否したところ、同年十月一日附で右受諾者に対しては依願退職処分に附し、その余の十一名に対しては官吏分限令第十一条第一項第四号によると称してこれを休職処分に附した。しかしながら右の如く整理の理由、基準を示さず、本人等に考慮反省の余地を全く与えずしてなされた辞職勧告は憲法の保障する思想、言論及び良心の自由の基本的人権を侵害するものであること明らかであつて、かかる不当な勧告に基いてなされた原告江口に対する退職処分は違法である。また右休職処分は何等正当の理由なくしてなされたものである。前記官吏分限令の規定にいわゆる「官庁事務の都合による」というが如き抽象的不明確な事由のみによつて一方的に休職処分に附することは許さるべきでない。よつてその余の原告等に対する右休職処分も違法である。そこで原告小林、小川、音成、十文字、西岡、坂本、水田は教育公務員特例法第十五条により準用せられる国家公務員法第九十条の規定に従い、昭和二十四年十月十五日に被告佐賀県教育委員会に対し原告等の本件休職処分に対する審査の請求をしたが、被告委員会はこれに対し三箇月以上を経過するも何等の審査をも開始しない。そこで本訴をもつて原告等に対する前記各処分の取消を求めるものである。以上の如く被告のなした本件休職及び退職処分は違法であつて、これがため原告等は各その職場において教員として教育労働に従事し得べき権利を不当にはく奪されたものであるから、被告の右処分は原告等に対し不法行為を構成するものであり、被告はこれがため原告等の蒙つた損害を賠償すべき義務あるものである。右不法行為により原告等の蒙つた損害としては、先ず原告等は本件処分の結果昭和二十四年十月一日以降教員として当然受くべかりし給与の支払を受け得られなくなつたが、その金額は昭和二十四年十月一日から昭和二十五年一月末日までの分として原告小林については金一万七千九百七十六円、同小川については金一万九千八円、同音成については金一万五千八百三十六円、同十文字については金二万三千九百六十八円、同西岡については金二万七千九百九十六円、同坂本については金三万千六百十二円、同水田については金一万二千七百十六円、同江口については金一万五千八百四十九円となり、なお昭和二十五年二月一日から本件休職及び退職処分取消に至るまでの分として、一ケ月につき原告小林については金八千二十三円、同音成については金五千五百二十七円、同十文字については金八千二十三円、同西岡については金九千二百七十七円、同坂本については金一万五百二十二円、同水田については金四千三百六十八円、同江口については金五千二百八十三円となる。次に被告委員会は前記の如く原告等の審査請求に対してもこれを無視して顧みず、一年以上を経てから流行のレツドパージに便乗して原告等に対する中傷侮告を敢てするなど悪意を以て原告等に対しその教育労働者として、また公民としての自由と名誉を著しく侵害したものである。他方原告等は数年乃至十数年教育労働者として献身し、第二次大戦後教育の復興とその民主化のため各その職場に労働組合に活躍して来た者であつて、本件処分によりにわかに職場を追われ、その全教育活動を停止せしめられた痛苦は何にたとうべくもないものがある。原告等の右精神上の損害は一応少額ながら各自金十万円を以て慰藉せらるべきものと信ずる。よつて被告に対し損害賠償として以上各金員の支払を求めるものであると陳述し、被告の主張に対する答弁として後記「原告等を不適格者と認めた具体的根拠」に対し、原告小林は(一)の(2)及び(二)の(い)の(3)(4)(5)は認めるがその余は否認する。同小川は(一)の(1)乃至(3)及び(二)の(ろ)の(1)乃至(3)はいずれも否認する。同音成は(一)の(1)乃至(3)及び(二)の(は)はいずれも否認する。同十文字は(一)の(2)は認めるがその余は全部否認する。同西岡は(一)の(2)は認めるがその余は全部否認する。同坂本は(一)の(1)乃至(3)及び(二)の(へ)の(1)(2)はいずれも否認する。同水田は(一)の(2)及び(二)の(と)の(2)は認めるがその余は否認する。同江口は(一)の(1)乃至(3)は全部否認すると述べ、原告等全員において、原告中小林、西岡、水田、江口が高等学校、他の四名が小学校の各教員であつたことは認めるが、右在職中原告等が日本共産党員または共産主義の支持者として教育面においてその思想の宣伝普及等の行為に出で、その他公共の福祉に対し破壊的行動をなす恐れがあつたとの点は否認する。たとえ政党に籍を有し教育諸法規により制限せられる以外の政治活動をなした事実があつたとしても、それは憲法第二十一条により保障せられる基本的人権に属するものであるから右事実のみを以てしては本件処分の正当理由となり得ないこと勿論である。原告等の見るところによれば被告のなした本件退職処分の実質は佐賀県教職員組合に対する弾圧干渉に外ならないものである。即ち原告等を含む前記十六名の被辞職勧告者の大多数は教育復興防衛のために最も真劍且つ精力的に、寝食を忘れ家庭を顧みずして、支配階級特に現内閣の反動政策若しくは文教軽視政策に対して闘争を続けつつあつた佐賀県教職員組合の活動家たちであることにより右事実は容易に窺い知られるところであつて、被告の本件処分は右教職員組合の運営に対する支配または介入を目的とする違法行為であると信ずると述べ、損害賠償請求訴訟について被告に当事者能力なしとの抗弁に対し、県教育委員会は教育行政に必要な経費を要求し取得し、執行する権利を有し、自ら一個独立の人格を有する公共団体であるというべきであるから自己の犯した不法行為により他人に加えた損害につき自ら賠償の責に任ずべきものであると述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め、答弁として原告等の主張事実中その主張日時に原告等に辞職勧告をしたこと、原告江口を依願退職させ、その余の原告等を休職処分に附したこと、原告江口を除くその余の原告等から右休職処分に対する審査請求がなされたが審査手続を開始しなかつたこと並に原告等の俸給金額の点はいずれも認めるが、その余の事実は争う。原告江口は右辞職勧告に応じ任意に退職願を提出したので依願退職させたものであつて右退職処分に何等違法の点は存しない。その他の原告等に対しては教育公務員特例法施行令第九条地方自治法附則第五条により公立学校教員に準用せられる官吏分限令第十一条第一項第四号所定の「官庁事務の都合により必要なるとき」に該当するものと認め、佐賀県職員委員会の承認を得て休職処分に附したものである。而して被告が原告等に対し右の如く辞職勧告をなし、且つ休職処分に出でた理由は被告委員会の教育行政施行につき右原告等の教育者としての存在は適当でないと認めたことによるものであるが、更にこれを具体的にいえば、原告等中小林、西岡、水田、江口は高等学校他の四名は小学校の各教員として在職していた者であつて、その教育の対象は未だ純心な児童及び青少年であり、その言動の及ぼす影響は真に重大なものがあるにも拘らず、原告等は自ら公言せる如く日本共産党員またはその同調者であつて特に一方に偏した思想を持ち、且つその行動があつて公共の福祉に対し破壊的行動をなす恐れが十分にあつたものである。右の如く原告等を教員として不適格者と認めた具体的根拠は左の通りである。
(一) 原告等に共通する具体的根拠
(1) 原告等は共産主義を信奉してその政治的経済的実現を企図しあらゆる場合の言動にこれを現わして活動していた。
(2) 原告等は日本共産党の党員若しくはその熱心な支持者である。
(3) 原告等はあらゆる場合に新教育完成の名の下に当時の政府並に当局の政策は支配階級の反動政策なりとして階級意識を強調し階級闘争をせん動した。
(二) 原告等各人の具体的言動中顕著なもの
(い) 原告小林につき
(1) 鏡中学校在職中に校長から「共産思想の教壇実践をやつては困る」と注意され「しつぽをつかまれるようなことはいたしません」といつた。
(2) 伊万里高等学校在職中に職員会議で自己が日本共産党員であることを誇示した。
(3) 休職中に教職員組合も階級闘争をすべきであると佐教組内共産党グループの署名入りのアジビラを配布した。
(4) 昭和二十五年四月頃佐賀市で日本共産党の指導と認められる反税闘争に参加して検挙された。
(5) 同年施行の参議院議員選挙の際共産党候補者の選挙事務長として活躍した。
(ろ) 原告小川につき
(1) 昭和二十四年六月頃佐賀市赤松校区内で同年七月頃佐賀郡本庄村で原告十文字等と共に共産主義宣伝の紙芝居をした。
(2) 昭和二十三年鍋島小学校在職中に「アカハタ」を児童を使つて配布させた。
(3) 昭和二十四年六月同校で社会科の授業に藉口して「麦刈から田植まで」と題し生徒に共産主義思想を宣伝し階級闘争をせん動した。
(は) 原告音成につき
昭和二十四年三月(唐津小学校在職)の異動に際し校長を無視して原告十文字と連絡し、同人の在職する佐賀市日新小学校に転任運動をなし、同志の結集、その勢力の拡大強化を図り、意に副わずとして無断欠勤した。
(に) 原告十文字につき
(1) 日本共産党の名を持ち出して佐賀市八戸町で小供会を組織し、共産主義の宣伝をした。
(2) 昭和二十四年五月佐賀県地方天皇巡幸に際し児童に対して極端に片寄つた思想的指導をした。
(3) 同年三月佐賀県教職員組合本部で原告西岡等と共に佐賀地方の有力な共産党員等を招き教組内えの党勢拡大の方法につき協議した。
(ほ) 原告西岡につき
(1) 成美高等学校在職中生徒に対して共産主義思想の使そう、せん動をした。
(2) 昭和二十四年の衆議院議員選挙に当り原告十文字等と共に佐賀県教職員組合の立候補者推せんの協議会席上で日本共産党支持を強調し共産主義思想を使そう、せん動した。
(3)右(に)の(3)と同じ
(へ) 原告坂本につき
(1) 昭和二十三年五月中唐津市所在外地引揚者収容寮である松濤寮内で青年共産党の結成を使そう慫ようした。
(2) 極端な思想を持ち校内外において偏狭な言辞を弄し、他との協調を破るのが常であつた。
(と) 原告水田につき
(1) 生徒並に一般人に対し日本共産党の宣伝活動をし同志獲得を策した。
(2) 昭和二十三年五月武雄町萩尾公園で花見客あふれる中を赤旗を持ち歩いて党員たることを誇示した。
次に原告の損害賠償並に慰藉料請求については、被告は佐賀県の教育行政機関であつて、その公権力行使による損害の賠償義務者は国家賠償法の定むるところにより公共団体たる佐賀県であり、行政機関たる被告が自ら直接その義務を負うものではない。故に右訴については被告は当事者能力を有せず原告の請求はこの点において既に失当であると述べた。(立証省略)
三、理 由
原告小林、西岡、水田、江口の四名はいずれも佐賀県下の高等学校の教員、原告小川、音成、十文字、坂本の四名がいずれも同県下の小学校の教員として在職していたこと。昭和二十四年九月三十日頃被告佐賀県教育委員会が原告等に対し辞職勧告をし、原告江口はこれに応じて退職願を提出したので同年十月一日附を以て同人を依願退職させ、他の原告等は右勧告に応じなかつたところ、右同日附を以て同人等を休職処分に附したこと、原告江口を除くその余の原告等が同年十月十五日被告委員会に対し教育公務員特例法第十五条国家公務員法第九十条による本件休職処分の審査請求をし、被告委員会が右請求後三ケ月以上を経過した本訴提起の日までにこれが審査の手続を開始しなかつたことはいずれも当事者間に争がない。
而して公立学校の教員は教育公務員特例法第三条により地方公務員としての身分を有する者であるが、本件退職及び休職処分のなされた当時は未だ地方公務員法の制定施行前であつたので公立学校教員の分限については教育公務員特例法第三十三条同法施行令(改正前)第九条地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)附則第五条により官吏分限令の規定が準用せられたものであるところ、本件休退職処分も右官吏分限令に従つてなされたものであることもまた当事者間に争がない。
そこで本件退職及び休職処分に違法の点があつたかどうかについて考えることとする。
一、原告江口に対する退職処分について
原告は、被告のなした本件辞職勧告は何等その理由を示さず単に「諸般の情勢から教職に止まることを許されない」とのみ申し向けて本人に考慮反省の余地を全く与えず強いて退職願を提出させたものであり、かかる処置は憲法の保障する思想、言論等の自由に関する基本的人権を侵害するものであるから、これに基いてなされた退職処分は違法である旨主張し、その趣旨は原告江口を強要し、その自由意思を抑圧して真意に反する退職願を提出させたものであるということにあると解せられるが、右事実を認むるに足る証拠はなく却つて証人原弁一の証言によれば、同原告はその頃佐賀商業高等学校の教員をしていたが予ねて共産党員との交友関係や校長に無断で校内に壁新聞を掲示したこと等から校長その他の職員の注目を受けていた者であるところ、本件辞職勧告に際しては被告委員会の意を承けた校長原弁一が同校人事委員会に諮りその了解を得た上で同原告に辞職を勧告したのに対し、同原告も前記のような平素の関係を考慮し止むを得ないものと納得してこれを応諾し、任意に退職願を提出したものであることを認めることができるから、被告委員会が右退職願により同原告を依願退職処分に附した行為を以て違法であるということはできない。
二、その余の原告等に対する休職処分について
官吏分限令第十一条第一項第四号は「官庁事務の都合により必要なるとき」と規定しているので、これが準用を受ける公立学校教員についても任命権者の完全な自由裁量により随意に休職処分に附し得るものと解せられる余地がないでもないように見えるが、教育公務員が青少年の教育という特異の職責を有する点を考慮して、その任免、分限等に関し特に教育公務員特例法が制定せられた点及び同法により地方公務員たる公立学校教員についても国家公務員法を準用してその意に反する不利益処分に対する審査請求の途を開いた点等に照らして考える時は、官吏分限令の前記規定による休職処分もこれをいわゆる自由裁量処分となすのは相当でなく、教員としての適格性を欠く等正当の事由ある場合に限り許されるものであり、何等正当の事由なくしてなされた休職処分は違法な行政処分として裁判により取消されるべきものと解するのを相当とする。
そこで原告等に対する本件休職処分が正当の事由に基くものであるかどうかについて考えるに、証人納富善六、武野止の各証言及び被告代表者本人尋問の結果を綜合すれば被告委員会においては本件休職処分をなす数ケ月前から所属職員や各学校長等下部機関その他に命じまたは依頼して管下各公立学校の教員等につき不適格事由の有無を調査することとなり、特に日本共産党党員または同党の熱心な支持者は教員としての適格を欠くものと認め、これが調査を進めた結果、原告等を含む十数名の者をその該当者と認定し、これに対し一応任意の辞職を勧告した上、これを応諾しなかつた原告等に対し本件休職処分に出たものであることを認めることができる。而して原告小林、十文字、西岡、水田がいずれも本件処分の以前から日本共産党に入党していた者であることは同原告等の自認するところであり、各成立に争のない甲第三十、第三十二、第三十四号証、同第三十五号証の二、乙第二号証の一、二、同第四、第五、第六、第八号証及び証人柴田定次、大川伝次、松尾一真、野口三治の各証言によれば、原告小林、十文字、水田は予ねて自ら共産党員であることを公言して他の教職員等に少からぬ衝撃、影響を与え、且つ学校内外において同党の政治活動乃至宣伝普及のため活溌に働いた事実原告西岡は共産党員として在職学校の一部生徒に影響を与え、且つ佐賀県教職員組合の執行委員として同組合内部において原告十文字等と共に共産党若しくは共産主義の宣伝普及を図つた事実、原告小川、音成は予ねて原告十文字と親交があり日本共産党及び共産主義を支持し、しばしば教員として越軌の行動があつた事実、原告坂本は在職学校の校長その他の職員等に対し自ら共産党員である旨言明したこともあり、予ねて学校内外において尖鋭過激な言動に出ていた事実をそれぞれ認めることができる。右原告七名に対する各本人尋問の結果中右認定に反する部分は前記諸証拠に照らしにわかに信用し難く、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。
而して学校教育法第九条第四号、教育職員免許法第五条第一項第六号において日本国憲法施行の日以後において日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し又はこれに加入した者を教育職員としての欠格事由と定められている点、日本共産党がわが国の現在の政治経済組織の暴力破壊を主張する政党であることが公知の事実である点に前記認定の諸事実を綜合すれば、被告委員会が原告等を公立学校教員としてその職に留まらしめることを相当でないと認定し、これを休職処分に附したのは被告委員会としてその教育行政上真に止むを得ざるに出たものであり、右は処分の正当事由ある場合に該当するものということができる。
以上の如く本件休職処分は正当の事由に基くものであり、また証人武野止の証言及び被告代表者本人の供述によれば、被告委員会は本件処分についてこれを佐賀県職員委員会の議に附し、その承認を得たものであることを認めることができるから、実質面においても手続面においても何等違法の点はないものといわなければならない。
原告等は本件処分の実質は任命権者たる被告委員会が佐賀県教職員組合の運営に対する支配介入を目的としたものであるから違法であるとも主張するが、これを認めるに足る証拠はない。以上説示するところにより本件退職及び休職処分には違法の点がないから、これが取消を求める原告等の請求は理由がない。
次に原告等の本件損害賠償請求について考えるに、被告委員会は佐賀県の教育行政を担当する一行政機関であつて、自ら直接に一般私人等との間に私法上の権利義務の関係を生ずるものではない被告委員会の構成員たる教育委員等が職務の執行に当り故意過失によつて違法に他人に損害を加えた事実があつた場合は国家賠償法の定めるところにより公共団体たる佐賀県がその賠償の責に任じ、また著しい職権濫用の行為があつた場合は個々の教育委員等が個人として賠償の責を負うことはあり得るであろうけれども、行政機関たる被告委員会が、それ自体として、損害賠償債務を負担するということは考えられない。即ち被告委員会の如き行政機関は不法行為による私法上の法律関係について権利義務の主体とはならないものであり、従つて右不法行為による損害賠償請求訴訟においては当事者能力を有しないものといわなければならない。そこで原告等の本件損害賠償請求の訴は当事者能力のない者を被告とした不適法のものという外はない。
よつて原告等の本件退職及び休職処分取消の請求はいずれも失当としてこれを棄却し、本件損害賠償請求の訴はいずれも不適法としてこれを却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 岩永金次郎 富川盛介 岩村溜)